讀賣新聞





2005年(平成17年) 1月13日 (木曜日)

大震災で逝った友へ・・・・思い込め

響け鎮魂と復旧の調べ

 阪神大震災で親友のピアニストを失った悲しみを乗り越え、国際コンクールで最優秀賞を獲得、国内外で活躍するピアニスト瀬田敦子さん(49)(豊能町)が16日、豊中市の震災10周年記念事業で、鎮魂と復興の曲を奏でる。失意でピアノを弾けなくなった時も「人の胸に届く演奏を」と模索した時も、支えになった亡き友への思いを込める。

豊能のピアニスト瀬田さん    「人の胸に届く演奏を」



鎮魂曲を披露するピアニストの瀬田敦子
さん(淀川区西宮原のホールで)
 瀬田さんは1993年、武庫川女子大(兵庫県西宮市)に教育音楽専攻の非常勤講師として着任。同時期に同じ専攻の講師になったのが猪木聡子さんだった。心を重視する指導方針や前向きな姿勢に共感、時折ペアを組んで授業をした。
 その豊かな才能に驚かされたのは94年1月、コンサートでグリークのピアノ協奏曲を聴いた時。叙情の豊かな調べが胸に染みた。
 その曲を学内演奏会で一緒に弾くことになり、練習を始めようとした矢先の1月17日、震災が発生。猪木さんは倒壊した芦屋市の自宅で亡くなった。31歳だった。
 「これからの人なのに……」。しばらくピアノに向かえなかった。「人が困っている時、ピアニストは何も役に立たない」。そんな思いも追い打ちをかけた。
 四か月後、チャリティーコンサートで恩師の演奏に衝撃を受けた。ショパンのノクターン。胸に迫る旋律に「ピアノで人の心が動かせる」と涙があふれた。
 どうすれば、あんな音を出せるのか。瀬田さんはひたすら練習に打ち込んだ。「何かを伝えたい、表現したい」。自分でも驚くほど強い思いが突き上げた。
 翌年、初挑戦のイタリアの国際音楽コンクールで最優秀賞を受賞。活動の揚が海外にも広がった。
 当日演奏するのはリストの「ラ・カンパネラ」と津軽じょんから節をアレンジした「JONKARA」。鎮魂の祈りと、復興への力強さを表現する。
 瀬田さんは「人々の魂に届いて勇気を与えられる演奏を」と話している。