音楽の友




( 音楽の友  2003年4月号  福本 健 )

<アルゼンチンに魅せられて>と題され、ヒナステラ没後20年を記念した彼の作品によるラログラムで開かれた。前半に「アルゼンチン舞曲集」「3つの小品」「ミロンガ」「マランボ」「クリオージャ舞踏組曲」、後半にソナタの第1番と第3番が演奏されたが、きわめて魅力的で楽しめる内容であった。独特の暖かみのある、それでいてしっかりとした、響きの豊かな音も大きな長所だが、何よりアルゼンチン特有のりズム感をしっかりとものにしていると思える。リズムの伸び縮みの柔軟性や各声部間の音量バランスなどに鋭敏な感性が認められ、実に音楽的な表情を生み出していたのが良い。あまりポピュラーでない曲をレパートリーの中心に置いている人の場合、自己満足か独りよがりと思える演奏に終始することも多いが、瀬田の場合は聴き手を十分に楽しませると同時に説得力も強い。ヒナステラのピアノ曲をこれほど楽しく聴けたことは、ほとんど初めてである。
     (2003年2月12日・大阪・ザ・フェニックスホール)